「五分後の世界」村上龍著

画像いわゆるタイムスリップもの。"実在する現代の"日本に生きる主人公は、みょんなことから、別の次元の"あり得べき"日本に紛れ込んでしまう。

<ここから多少ねたバレ>




その"あり得べき"世界においては、大日本帝国は原爆を5つ落とされ、本土決戦に突入し、国土は国連軍に統治されて、日本国民は文字通り地下にトンネルを掘ってゲリラ国家と化し、その人口は現在26万人である。

まずは人口26万の戦闘的地下国家という発想が破天荒だし、"実在する現代の"日本から主人公がその世界に入り込む理由はほとんど何も説明が加えられてない。

要するに設定はめちゃくちゃで、もし村上龍さんが書かれたのでなければ、それこそ作中の向精神薬「向現」をばっちりキメて創価学会の未来論のような理想郷を描いたキチガイ作品と捉えられてマスな出版としては世に出なかったであろう。

や、村上龍さんの作品であっても、幻冬舎でなければ腰が引けたかも?

しかし、破天荒な設定を受け容れてしまえば、引き締まった戦闘国家に昇華した日本が理想主義を体現した高貴や、地上に取り残された部落がゴミのような伝統だけを保持する悲惨、そーいったディティールはさすがにもりもり伝わってくる。

おそらく、主要なテーマのひとつとしては、弛緩した現代日本の反転像として、引き締まって本質的に平等な、畏敬の対象としての"あり得べき"日本を提示することなのだろうと思う。

しかし、26万人が自覚と能力を備えた戦闘国家を成立するためには、必然的に優生思想が求められるであろう。やたら優秀な学生ばかりが登場する本書の地下国家日本の描写には、どーしても北朝鮮の一糸乱れないマスゲームや身なりの良い子供たちの歌舞を連想してしまうのである。

そのへんのイマジネーションを楽しみながらカタルシスを味あう、そんな意外に偏った作品だと思う本書であった。

ちなみに、著者があとがきの末尾で「今までの作品の中で、最高のものになったと思っている。」と書いているのは、著者の一流の冗談であろう(^^)



(平成9年発行・購入、幻冬舎文庫)

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